はじめに

 

 滋賀の豊郷小学校や東京・品川区の旧正田邸などを始めとして、近年、全国的に数多くの歴史的な建造物が、制度や資金の壁に阻まれて取り壊しの危機に直面している。

 鳥取市においてもそれは例外ではない。できれば保存したい、保存して欲しいという声の多い中、公的な支援策が施されないまま、馬場町の旧岡崎邸(写真1)や元大工町の池内邸(写真2)といった江戸時代や明治時代を生き続けてきた建造物が今、取り壊されようとしている。いったん取り壊されれば、そうした建造物を目にすることは二度とかなわない。

 

 「市民文化財ネットワーク鳥取」では、鳥取市民が鳥取市の歴史=先人の知恵の集積を知り、自分たちの住む町に誇りを持てるような仕組み作り、地域文化の向上、より良いまちづくりを目指して、前進の「武家屋敷保存ネットワーク」の精神と実績とを引き継ぎ、市内に残る歴史的な建造物の保存を訴える活動を続けてきている。

 

市の委託を受けて行われた『旧岡崎邸・池内邸建造物調査』も、こうした活動の成果の一つである。この調査は、地域住民に専門家を交えたボランティアグループによって行われたもので、旧岡崎邸と池内邸の歴史的な価値とその活用の可能性についての検討を行った。そして、この調査結果・報告をもとに、旧岡崎邸を史跡指定に、池内邸を国の登録文化財にと意見提案されるに至った。

しかし、2003(平成15)年2月12日の新聞報道にもあるように、この提案を受けての市の文化財審議会では、慎重に見極めるべきとの意見が大勢を占め、事案の保留が提議された。

 

 今すぐにでも取り壊しの危機にある建造物にとって、「保留」は「取り壊し」を意味する――――