歴史的遺産保存のための財団設立の必要性

 今回の調査によって鳥取には少なからず歴史的な遺産が存在しながら公的な支援策が施されないままになっていることが明らかになってきた

これは鳥取市の災害の歴史、殊に昭和18年の震災、昭和27年の火災から多くの歴史的な遺産が消失したという前提で各種の行政施策が施された結果と考えられる。

今回調査した2つの屋敷、旧岡崎家住宅並びに池内家店舗付住宅は、何れもこれら災害にも拘らず、残存する歴史遺産である。

これらの建物はその所有者や居住者がその建物に何らかの愛着を感じていたからこそ残されてきたものと考えられ、その周辺の人々もその存在を前提に町の姿を描いてきたものと考えられる。しかし、その他にも多くの建物がこれら災害を潜り抜けて生き残っており、人々に愛され、維持されてきている。

これらの建物には人々の生活に対する工夫が篭められており、そこに住んだ人々の細かな心配りの積み重ねが残されている。そして中には今日再度同じ物を建てようとしても入手することの困難な用材、技術が使われており、貴重な遺産と認められるものが少なくない。

これらの歴史的な遺産を維持することは今日大変難しくなってきている。その要因としては、わが国の遺産相続税制度、職人技術の低下、生活スタイルの変化などが挙げられるが、これらと共に都市計画、都市景観がこれら歴史的な遺産に対する脅威となっている。

他方、今回の調査報告を兼ねて見学会を開催したところ200人以上の参加者があり、人々の関心の高さが明らかとなったが、それは人々が地域の歴史遺産を尊重し地域に対する誇りを持ちたいと願っているものと感じられた。

歴史遺産の保存には問題が少なからず存在する。歴史遺産の全てを残し得ないことは歴然としている以上、どのようなものに価値を認め、どのような改変計画を受け入れるべきかを検討する必要があろう。維持・保存すべき建物や町並みが存在しているのであるから、問題は、この維持・保存をどのように行なうかである。

歴史的な遺産の多くは個人の資産であり、個人の努力によって維持されてきた。しかし、個人の努力では維持が困難な時代になってきている。所有が個人である限り、高い遺産相続税によって維持が困難となる場合が少なくないし、年々、補修費も高くなり、しかも補修にたずさわる職人も少なくなり、補修が出来なくなりつつある。

これら多くの歴史的建造物の維持をすることは今後長い年月の間行うことなので、その間にも老朽化が進むので公的な予算のみでは困難である。所有者も遺産相続税の課税を避けるためには個人所有よりも法人所有が良く、しかも寄贈や寄付に対して贈与税が掛からない法人とする方が望ましい。

このようなことから、歴史遺産の保存にはこのような寄付行為を明確にした財団法人を設立し、これら歴史的建造物の寄贈を公的資金と民間資金の双方を合わせて維持・保存する必要がある。

財団は、永続性、安定性、非営利性などの観点からこのような目的に最も適した法人形式と考えられる。

公益法人の設立基準の見直しが進められており、許可制から届け出制に移行するなど、将来的には設立が容易になる可能性があるが、現時点では省庁ないしは県の許可が必要となる。