調査を通じ感じたこと

 

旧岡崎邸・池内邸調査チーム委員長

鳥取環境大学 環境デザイン学科

教授 渡辺 一正

 

旧岡崎邸・池内邸の調査を行なっていて最も強く感じたことは、鳥取の伝統的な木造建築技術の素晴らしさであった。大工技術、左官技術、用材のどれを見ても質が高く、であればこそ震災にも耐えたと納得させられた。このことは、鳥取が今日、わが国で最も量産型の住宅建設率の高い、即ち新築住宅総数の中でプレハブ住宅など量産住宅が占める割合が大きいことと比較すると驚きでもあった。

岡崎邸においては詳細部まで調査し得たが、軸組自体の堅固さに加え、土壁施工の良さ、小屋梁を受ける桁を2重に重ね弱点となる各々の継手の位置をずらして欠点の発生を防ぐなど細やかな構造的配慮が行き渡っている。池内邸でも昭和18年の地震による損傷が軽微であったことは、特筆に価する。

両建物は、このような構造的な配慮ばかりでなく、デザイン的にも優れている。岡崎邸の主な材料は智頭スギと思われるスギ材であるが、隅角部に素材の丸みを残す面皮柱の納め方は、スギの性質を知らねば出来ない技術である。池内邸は、随所にトチやサクラ、ケヤキなどの堅木を要所に用いる他、2階座敷の床間の設え、欄間の彫刻、設え、土壁の意匠など、どれをとっても1級のデザインと言えよう。

これらの素晴らしい技術を担っていた大工、左官、材料供給システムが、かつては存在していた。それが今日少なくなってきている要因は何であろうか。このような職人を復活させるにはどうしたら良いのか、今後検討する必要があろう。

この間、これら両建物の調査を行う中で、それとの比較という意味もあって市内の幾つかの建物を概略調査したが、市内にはこれら2棟以外にもかなりの歴史的な建物が残されていることが判明した。

2つの災害、震災、火災によって良いものは全て失われたというのは、ある意味では正しいのであろうが、全ての建物が燃えた訳でもなく、残された建物には今日では造り得ない質の高い建物も少なくない。このようなことは鳥取市民の誇りとすべき事柄であろう。

市のこの程の英断によってこのような調査をなし得たことに改めて大変ありがたく感謝する次第である。また、調査の過程でご協力下さった、旧岡崎邸、並びに池内邸関係者の皆様、また直接的、間接的に調査作業にご協力下さった多くの方々に心からお礼申し上げます。

更に、今回の調査は、市民グループが地域並びに県外の各種エキスパートを集めて行ったものである。地域の歴史・古文書の調査を詳しく行い得たのは、これら市民グループの幅広い協力があって初めて可能となったことである。特に記し、市民の糧としたい。